2003/06/19〜

小説ばかりです。好きも嫌いも、好き勝手書いてます。
何か「これを読まないと人生損してる!」というのがあったら
メールフォームで教えてくださると有り難い。



『細雪』谷崎潤一郎(上中下3巻)

うーん。微妙だ・・・。タニジュンが源氏物語みたいのが書きたくて書いただけあって、大阪の落ちぶれた良家の古風な四姉妹がちょっと事件も起きながらも、だらだらだらだら暮らしていく日常を追います。・・・なんだろう、もっと精神的余裕があるときに読んだら楽しめたのかも。とにかく短気で切羽詰まってた私は最後まで恐ろしいほどこの姉妹に好感が持てなかったです・・・。ものすごくプライド高いのに自分から何もしなくてのんびりしててとにかく世間体ばかり気にする人達でしたよ。でも今日授業で「ずっと雪子ちゃんを応援しながら読んじゃいましたvv」とか言ってる人もいたからきっと好みの問題だろう。私は雪子ちゃんは一番苦手だ。
登場人物が苦手ならせめて話を楽しもうと、ついつい小説的展開を期待して「あーこの人と恋に落ちるのかな?」とか「この人死んじゃうのか?」とか思いましたが全部当てがはずれたというか不発に終わりました。むしろ死んでほしくない人はあっさり死にました。不発だらけ。ある意味ティモレオン並の悪夢。まあでも暮らしぶりは興味深いです。
そしてラスト一文は・・・。



『ティモレオン』ダン・ローズ

帯に「美しいほどに不条理!誰もが知ってる最悪の夢を表現」とか書いてあってギヒャーと思いましたが、本当に夢を見たかのようです。読み終わったあと「ウーン・・・あれ、わたし、今何してたんだっけ・・・」みたいな。なんというのか、全編、ルソーの絵みたいな感じです。たとえばカンボジアのジャングルとか、そりゃこまかく描写はしてあるけど、リアルじゃない。なんというか、私が安易に想像するカンボジアのジャングルそのままだな、と思う。これはカンボジアではなく作者の想像上のカンボジアなんですね、たぶん。ポールマッカートニーなどの実際の有名人の名前も出て来るんだけど、やっぱりどれもどこかおかしいわけで。
で、それがいけないのかというと全然そうではなくむしろそれが味で、そんなどこか夢のような雰囲気をずっと保っています。 それから後半に多数でてくるエピソードはどれも秀逸にすばらしいです。ひとつひとつ語ったらきりがないですけど。特に『ジュゼッペまたはレオナルドダヴィンチ』とか、あれ、どうよ。『中国風の名前』に至ってはもはやどう反応していいのかわからなかったし。もう死にそう。で、悪夢らしくラストは「あーひょっとしてまさかまさかいやそんな展開だけはやめてくれ」と思ったことが実現しました。あ〜。
こういう小説はじめて読みました。

あと、こんなふうに言ったら真面目に読んだ方々に怒られそうですが、国際結婚っていいなー、としみじみ思いました。イタリア人+中国人とかフランス人+カンボジア人ってひじょーに萌えます。誰かラトビア人+日本人書きませんか。



『悪霊』ドストエフスキー(上下2巻)

「ぼくはこの間、黄色い葉を見ましたよ。緑がわずかになって、端のほうから腐りかけていた。風で舞ってきたんです。ぼくは十歳のころ、冬、わざと目をつぶって、木の葉を想像してみたものです。葉脈のくっきり浮き出た緑色の葉で、太陽にきらきら輝いているのをです。目を開けてみると、それがあまりにすばらしいので信じられない、それでまた目をつぶる」
「それはなんです、たとえ話ですか?」
「いいや…なぜです?たとえ話なんかじゃない、ただの木の葉、一枚の木の葉ですよ。木の葉はみんなすばらしい。すべてがすばらしい」
「すべて?」
「すべてです。人間が不幸なのは、自分が幸福であることを知らないから、それだけです。これがいっさい、いっさいなんです!知るものはただちに幸福になる。その瞬間に。あの姑が死んで、女の子が一人で残される……すべてすばらしい。ぼくは突然発見したんです」
「でも、餓死する者も、女の子を辱めたり、穢したりする者もあるだろうけれど、それもすばらしいのですか?」
「すばらしい。赤ん坊の頭をぐしゃぐしゃに叩きつぶす者がいても、やっぱりすばらしい。叩きつぶさない者も、やっぱりすばらしい。すべてがすばらしい。すべてがです。すべてがすばらしいことを知る者には、すばらしい。もしみなが、すばらしいことを知るようになれば、すばらしくなるのだけれど、すばらしいことを知らないうちは、ひとつもすばらしくないでしょうよ。ぼくの考えはこれですべてです。これだけ、ほかには何もありません」



長々と引用、すみません。↑これは別に作品の中心的な思想でないし、やばいとも思うんですが、なんとなく・・・こういうイっちゃってて高テンションのひとがたくさん出てきました。↓ここも好きです。

「あなたが帰ったあとで、僕があなたの足跡に接吻しないとでも思いますか?ぼくは自分の心からあなたという人をもぎ離せないのです、ニコライ・スタヴローギン!」


盲目的な崇拝、狂信的な群集、熱烈な愛と憎悪。檄文、狂言、屈辱、集団、悲劇、狂気、殺人。すべてがどっと押し寄せてきて、一体どうしたら。
いろいろすごくて結果的には読み通した価値があったとは思うんですけど、途中はほんと読んでて苦しいし、つらいし、いやになるし(読むことというより生きることが…)。終始不吉で、本気でゾッとする場面も多数。キリーロフとシャートフとマリヤが好きだったんですけど・・・ああ・・・。

結構頑張って読んだけど3、4週間はかかったか。最初は90ページ読んでもちっとも話が動く気配がしなくて疲れました。話が動き出したと思ったら登場人物が多すぎて、途中からメモを取りながら読むことに。名前だけじゃなく関係とか年齢とか職業も書いたりして。そしたらこれが意外とすごく便利。ロシア人の名前は覚えにくいし、これからもこうやろうかなー。難解な思想もできるだけ頑張って読んだんですが、理解できないものも、現在の日本に生きる者からしたらピンとこないものも多かったです。うぅ。せめて頭よくなりたい。

それにしてもこの本の題辞の、聖書の引用の仕方は見事としか言い様がないです。なんでも聖書を引用してるだけでかっこいい気がしてたんですが、私が甘かったです、そんなかっこいいわるいのレベルじゃなかった。題辞ってこういう効果を出すためにあるのねー、と思いました。

題辞といえば、読んでたら村上春樹の「神の子どもたちはみな踊る」の題辞に引用されていた箇所が出てきて、不意の出会いにびっくり。引用されたのは
 「リーザ!きのうはいったい何があったんだろう?」
 「あったことがあったのよ」
 「それはひどい!それは残酷だ!」
という部分なんですが、この次に来る言葉は
「残酷だからってどうなの、残酷だったら、お耐えなさいな」
でした。えっ・・・リーザ・・・。題辞だけ読めばいいけど、通して読んでしまうとあの小説にどうしてこの部分が引用されたのかよくわからない。



『マリア様がみてる2 黄薔薇革命』今野緒雪

続き、読んじゃいましたよ。やっぱりどうやったらここまで王道いけるのかというくらい王道ですが、前作よりおもしろいような気もする。相変わらず祐巳ちゃんはあんまり好きじゃないんですが、ひとことだけ言わせてくれ、由乃ちゃん、かわいい。由乃ちゃんいるならこの続きも読もうかなーと思いました。それから白薔薇様は、アレな割には生ぬるいです。今後のハジケっぷりに期待します(え…)。
アニメが始まるのかー、と思ってHP見てみたら、深夜1時。おお・・・それ系か。あとURLが『www.ごきげんよう.com』で笑えました。



『きけ わだつみのこえ』日本戦没学生記念会編

「ああ、マヂエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように早くこの世界がなりますように、そのためならば、わたくしのからだなどは、何べん引き裂かれてもかまいません。」(宮沢賢治「烏の北斗七星」)

「歴史とは、世界とは、一体何なのだ。誰が歴史を動かすのだ。激しい怒濤にもまれているような。幻の馬車のわだちがきこえる。目に見えぬわだちの音が聞こえる。歴史とは何だ。人間とは何だ。一体俺をどうしようというのだろう。」


イラクだの自衛隊だの、改めて考えさせられる最近ですが。この本は中学高校の時とか「読め」と言われてた気もするけど、大学生という同い年くらいになって特に痛切に感じるものがある気がします。 考えてることはいろいろで、絶対軍になんか行きたくない!という人もいれば、それこそ国のために死ねて本望だ、という人まで。そのそれぞれの思想やドラマもすごくいいんですけど、みんな帝大や京大の、歴史や世界について真摯に考えてて学問を愛する優秀な学生ばかりなのに、彼らがみんな死んでしまったというのが痛ましかったです。生きてたら会って話してみたかった。ほんとに素晴らしい文章を書くひとばっかりです。
上部の宮沢賢治のことばを引用した佐々木八郎さんの遺構(?)は平和に関するほんとうに素晴らしい文章なので絶対に一読の価値あり。他もすべて感動的だけど、中村徳郎さん、尾崎良夫さん、木村久夫さん、などは特に。
これは戦争下という状況で特別だけど、それでなくとも手記とか日記っていいなあ。おもしろい。個人的には浅見有一さん、武井脩さんの手記はすごい詩だ!と思いました。



『地下室の手記』ドストエフスキー

「それにしても、こうわけがわからず、インチキだらけのくせに、痛むことはやはり痛みやがるな。いや、わけがわからないほど、痛みはますますひどくなるぞ!」

ひー。痛かった。傷ついた。読むだけでグサグサと。
自身の知性を自負しながらも、自分を屈辱まみれで虫けら以下だと思っている主人公の手記&昔の体験記。 短いけど、途中がものすごく読みにくかったり、痛すぎて読めなかったり。
前半の、ひとりで語りまくる文章はときどき難しくてわからないけど、こういうの私はすごく好きです。しかも語りかけ口調だから、話を聞いてるみたいで楽しかった。でも思い当たることが多すぎてホント痛・・・。私も痛い空想大好きのねずみです・・・
後半の物語も当然ながらすごい。空想しまくりだし。主人公があまりに嫌なやつで救いがなくて哀れで。クライマックスの「ぼくはならしてもらえないんだよ…ぼくにはなれないんだよ…善良な人間には!」(友人に怒られるので反転)という悲痛な叫びは何度も音読してしまいました(やばい)。あとは133ページ(新潮文庫)の雪のシーンや、155-161ページの息もつかさぬセリフが圧倒的にすばらしいです。193ページはこの先何度も何度も読み返してため息をつくと思います。ていうかもうどこもすごいんだよな・・・。あー、なんでこんなにすばらしいんだろうな!
詳細は語るととまらない気がするのでやめときます。とにかく短いのにぎっしりしてるからこの先何度も読み返すんだろうなという予感がします。

もしかしてドストさんの本は読むだけで自虐なのかも・・・とか思いました、今。



『新約聖書:マルコ福音書』

「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」

えーと私はまったく信仰のカケラも何もないので別に新約聖書なんか読んでもどうせキリストマンセーって感じだろ、と思ってたんですが、ちょっと聖書学の授業を受けてこのマルコ福音書を読んだら、文学的にすごくおもしろくて驚きました。これもある意味2000年前の人が書いた小説なんだなー、と。

↓見直したこと
■奇跡が起きまくってるけど実際できたかどうかはどうでもいい。
■マルコ福音書のイエスはやたら孤独で神経質。しかもイエスの言うことを弟子はひとりもわかってあげてない・・・!イエスはずっと「なんでお前たちはわからないんだ!」とイライラしてる。
■ほんとは16章8節で終わってたらしい。確かにそれ以降の部分は括弧でかこってある。でもこのラストだとあまりにひどすぎるので、中世に続きが付け加えられたとか。

いやもう16章8節で終わってたというのがすごい・・・!!これだけでも全然違います。かなりシュールな展開。イエスの死が一気に惨めになっちゃいます。
しかもマルコ福音書は一番最初に書かれた福音書であるそうなので、こんなに不安に満ちたところからスタートしたのか、と思うと他の記述の見方も一気に変わりそうです。
あ、ペテロが「イエスなんて知らない」て言うところは普通に悲しかったな・・・。



『マリア様がみてる』今野緒雪

祥子さまの入れた紅茶は、ちょっと濃くて渋かった。みんなは一口飲むと、お砂糖や粉末のミルクに手を伸ばしていたが、味についての文句は言わなかった。
祐巳は何も足さないで飲んだ。祥子さまがそうしていたからだ。


今、何かと話題なこの本。読んじゃいました・・・。友達のバンビが1年前くらいから「いいよ〜」とか言ってて。彼女は発売当初から「これは来る!」と思ってたらしいです。時代先取りだよな・・・。というか、大学生になっても友達にコバルト文庫借りるとは思わなかった・・・。
それはともかく。これは、超お嬢様女子高を舞台とした「ごきげんよう」「お姉様!!」「タイが曲がっていてよ」「あっ・・・紅薔薇のつぼみ(←ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンと読む)様!」な百合色フルスロットルの本です。なんだか、吉屋信子の大正時代から女の子が好きなものって全然変わってないんだな。すげーな(←率直な感想)。でもそういう舞台でも「笑う大天使」みたいなおもしろいのもあるので、どうかなーと思って読んだんですが、なんていうか、メインの事件が地味っすね・・・これからどうくるか!と思って読んでたら終わったよ・・・まあ、これは萌えを吸収できればそれで万事オッケーなのだろう。女同士で手取り足取り社交ダンスとかピアノ連弾とかいろいろ王道いってるしね。うん。しかし私の萌えポイントからは微妙にずれていた。祐巳ちゃんがおとなしすぎるのもなんだかなぁ。あと名前のセンスもちょっと。「リリアン女学院」て名前からしてギャグだよ。マリア様もこんなん見せつけられたらいろいろ大変だよな。まあそんな感じです。もう15巻もでてるらしいけど、続きを読むべきか。



『人間嫌い』 モリエール 評価・8

「私の詩について、あなたのご感想はいかがですか?」
「はっきり言ってこの詩は引き出しにしまっておくかトイレに流したほうがいいですね」


うわべでお世辞ばかりいう人間に飽き飽きした男とその恋のドタバタ劇。
友達に「意外とおもしろい」と薦められました。なんかもう、ほんとにくだらなくっておもしろかったです。モリエールなんて歴史教科書に載ってるくらいだからお堅くて古いのかと思いきや、さすが喜劇作家。今でもウケる。テンポがすごくいい。他の「恋こそ名医」「いやいやながら医者にされ」なんてのも読んだんですが、やっぱりくだらなくておもしろかったです。



『ことばの食卓』 武田百合子 評価・9

夕方、北向きの薄暗い小部屋で、キャラメルやチョコレートの函を散らばして座っていると、さっきの兵隊さんたちがやってきて、井戸を使って帰っていった。一番あとから帰っていく兵隊さんが、通り過ぎてから又戻ってきて「何してるの」と言った。革と汗の匂いがした。どきどきした。兵隊さんは窓に凭れかかり、私が作りかけているロボットを、触った。薄荷みたいな匂いも少しした。きれいな顔のように思った。

ともだちが誕生日だったのでこの本をあげました。なかなか見つからなかったので新宿の紀伊国屋まで行きました。何気に駅から遠いよねあそこ・・・寒いし、意識薄れたぜ。げっそり。本をひとにあげるのは選ぶ段階がすごくおもしろい(どういう文章が好きだろうとか小説とエッセイどっちがいいかとか)のですが、もらったほうはすぐに感想が言えないのでどうだかなあという感じかもしれない。
で、これは、戦時中の思い出や最近の出来事などいろいろ、ものにまつわる短いエッセイ集。なんというか、圧倒的な感性の勝利。人間やっぱ感性あってなんぼでしょ、と思わせます。どうしてこんなにみずみずしくて無垢で素直できれいな文章がかけるのか。すんだ水を飲んだような気分になります。それでいて死や病気などの暗さもちらちら隠れ見えていたり。戦時中のこどものリアルな暮らしなどもわかって、すごくいい。わたしのおすすめは上にも引用してる「キャラメル」です。
ああ、このひとみたいな日記が書きたい・・・(無理です)



『花物語』 吉屋信子 評価・?

いやー、これはもう、どうしたらいいのか・・・おもしろいとこはおもしろいんだが・・・(苦笑)の嵐、って感じですな。花の名前のタイトルがついた小話がたくさんはいってるんですが、ほとんどが『御父様御母様と離れてひとりイタリー帰りのお嬢様が全寮制ミッション系女学校でお姉様たちとアレコレする話』ですね。耽美。おとなになんてなりたくない!て感じ。いやそういうの嫌いじゃないっていうかむしろ好きなんだけどいくらなんでも全部それだと・・・。でも当時(大正です)の女学生に流行りまくったっていうのはなんとなくわかる。白い洋館とかシスターとか、王道いってる乙女の憧れがぎっしりだもんな。女の子ってのはいつの時代もあんまり変わらんのな。中原淳一は好きだから挿し絵つきで読めればよかったなぁ。



『蒲団』 田山花袋 評価・7

悲しい、実に痛切に悲しい。この悲哀は華やかな青春の悲哀でもなく、単に男女の恋の上の悲哀でもなく、人生の最奥に秘んでいるある大きな悲哀だ。行く水の流、咲く花の凋落、この自然の底に蟠れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど儚い情ないものはない。汪然として涙は時雄の鬚面を伝った。

変態な話だと思ってて読んだらやっぱり変態だったけど、思ってたよりよかったです。あんまりタイプではないけど。うん。登場人物がみんなせこくて汚い感じがするのが嫌だなぁ。いや人間の考えてることなんて結局みんな汚いのさってことをいいたいのかもしれんけど。自然主義だしね。ありのままに。私はせっかく小説なんだから嘘くさいくらいに高潔な人とかが出てくる話が好みですなんですが。
でもこの時代は好きです。書生とか門下生とか女学校とか。いやー、ロマンだね。
実話を元にしてるらしいけど、こんなにぶっちゃけていいんだろうか、と他人事ながら思う。

上の引用しててふと気づいたけど、私は人が泣くシーンがそうとう好きらしい。



『水いらず』 ジャン・ポール・サルトル 評価・9

リュリュは息がつまるかと思うほどはげしく泣いた。もうやがて夜が白む。人間は決して決して、望むとおりのことは出来やしない。人間はただ流されるのだ。

友人に薦められて読みました−。誰も殺されないし自殺しないし妊娠もしないしで、よかった。どういうわけか、特に事件も起きずただ鬱々と考え込んだり漠然と不安を抱いたり泣いたりしてるだけの小説がすごく好きです。それでいておもしろいからすごい。しかーし、巻末の解説を読んだらこの作品は実存主義だの肉体がどうだの書いてあって、自分は読んでる間はそんなこと全然思いもしなかったのでこりゃいかんなと思いました。でもどうなんだろう。例えサルトルがそれを意図してても私が理解しなくてもおもしろけりゃいいんじゃないか、と。まあわかってるに越したことはないけど。



『リヴァイアサン』 ポール・オースター 評価・8

マリアはある朝カメラのフィルムを買いに出かけて、路上に小さな黒いアドレス帳が落ちているのを目にとめ、拾い上げた。この行為が、悲惨な物語を始動させたのだった。彼女がアドレス帳を開いたことによって、悪魔が飛び出し、暴力、騒乱、死が群れをなして飛び出してきたのだ。

予想してた話と全然違った。帯とか、あらすじとか、騙してるってコレ。最初は「あんなひどい事件がおきたのはここが始まりだ・・・」などと言ってばかりで一向にそのひどい事件の真髄に触れないので短気な私は「だから何が起きたんだってば!」とイライラしてきましたが、次第に波に乗ってきて半分以降は夢中になって一気に読みました。やはりオースターは、もういなくなったひとのことを書かせたら世界一なんじゃないかなあ、と思います。本当に愛情こめて、寂しそうに書きますよ。あと、ラストがすごく良かった。
「自分が生き延びることが、他人に残虐な行為をすることが前提になってしまっていると彼は信じ込んだ。」という一節では「はみだしっ子」のグレアムを思い出したり。



『魔術はささやく』 宮部みゆき 評価・5

宮部みゆき初体験。うん、まあ。普通におもしろい。ミステリーだなあ、という感じ。確かこれは高村の「黄金を抱いて翔べ」の前年に日本推理サスペンス大賞を受賞したんですよね。でもそう思うと、文章もあまりグッとこないし、伏線も私のようなミステリー素人にもすぐわかってしまうし、ラストも結局どうなんだろうという感じだし、主人公やそれを取り巻く人々もいかにもな感じだし。吉武さんのしたこと私は結構好きなんだけど罰を食らうし。MY愛読書「黄金を抱いて翔べ」とは遥かにレベルが違う気もするんですが(結局高村賛美かよ・・・)。それとも普通はあまりミステリーに陶酔できる文章を要求したりしないものなのでしょうか。
ま、デビュー作だしね。他のも読もう・・・。他に泣ける宮部作品は多いらしいし。(あーでもなんかこういうことを書くと文学通みたいですが全然です、よ。ただ好みが激しいだけ・・・)



『花嫁化蝶』寺山修司 評価・10

寒風をふさぐ北窓の目貼り。閉じられる雨戸。そして、家の中での血忌、親殺し、子殺し。救いのない長い灰色の冬。棚の上の子消し人形。間引き。首吊りの桜の木。斧。法医学。盲目。そうした中で、海の向こうから救世主がひょっこりやってくるという期待が、歴史を書き変えたとしても、学問の法廷で裁くことはできないだろう。
                           「きりすと和讃」


再読ですが。管理人が中学時代から大ファンである寺山修司の本の中でも特に好きな一冊。詩でも歌でも劇でも人生論でもないので異色作かもしれませんが、寺山の魅力全開です。青森にあるキリストの墓や、比婆山の怪獣、犬神伝説など、日本各地の不思議な存在を寺山修司が現地に出掛けていって調べる、民俗学&ルポルタージュ&妄想といったような文章が10ほど入っています。特に謎を暴くわけでもなく、ただ旅先の感傷にひたっている感じが素敵です。その、ひねくれていながらもの悲しい感じの言葉遣いがたまらない・・・。やはり文章うまいよな!と思いました。あと、再読したら、柳田國男の民俗学などが引用されているのが読んだばかりだからよくわかって、嬉しかった・・・。



『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー(上中下3巻) 評価・10+

「なあ、アリョーシャ、屈辱だよ、今だって屈辱に泣いているのさ。この地上で人間は、恐ろしいほどいろいろなことに耐えていかなけりゃいけないんだ。人間には恐ろしいほどたくさん厄災がふりかかるんだよ!」

「アリョーシャ、生きていたいよ。だから俺は論理に反してでも生きているのさ。たとえこの世の秩序を信じないにせよ、俺にとっちゃ、『春先に萌え出る粘っこい若葉』が貴重なんだ。青い空が貴重なんだよ。そうなんだ、ときにはどこがいいのか分からずに好きになってしまう、そんな相手が大切なんだよ」


この小説はイメージからして長いだの難しいだの読みにくいだのいろいろあるとは思いますが、この文庫本3冊で普通の小説100冊分の感動や悲しみが味わえるとすれば、絶対にどんな苦労も無駄ではないはず。私はわりと本を読むほうの人間ですけど、今まで読んだ中で最強で最高に美しい話だと自信を持って宣言したい、カラマーゾフ3兄弟(4兄弟?)が繰り広げる人間ドラマです。
ほんとに、全編にわたってどの場面もすごいです。すごくないところがない。ここまで異常に高いテンションを保ち続けられる作家の精神はふつうじゃない…!

私が買った書店では特別に「本屋さんの私の大切な一冊」という帯が付いていて、そこに「立ち読みするなら中巻p457〜459」(字が小さい頃の新潮文庫)と書いてあったのですが、それってクライマックスじゃないんですか!駄目でしょ、そんなものすごいとこを最初に読んじゃ!ほんと、中巻457〜459ページはすごかったです。言葉がここまで威力を持つものかと戦慄しました。文学少女の至福がここにある!
あとその帯に「この小説を読んだために生じる大きくて深い心の傷は一生治りません」と書いてあったのですが、いい表現ですね、これ。私は中学生の時に読んだ「はみだしっ子」の傷がずっと治らなかったから今こういう性格なんだろうなあと思っています。

ミーチャ(長男)が好きです。カテリーナ・イワノーヴナとミーチャのお辞儀の場面、ミーチャのくるみ400グラムの場面は何度読んでもいい!グルーシェニカもリーズも好きだ。女の子はみんな傲慢で気高くていい。イワン(次男)も好き!「大審問官」もすごいしカテリーナ・イワノーヴナとのどろどろがたまらない。アリョーシャ(三男・一応主人公)は最初電波な子だなぁと思いましたが、そのうちほんとに天使だよこの子は!と思い直しました。そりゃみんな癒されちゃうよな!

え、これ、未完?



『智恵子抄』高村光太郎  評価・9

「なんという光だ、なんという喜だ」

どうしてそんなものがブームになり得るのかわかりませんが、今は純愛ブームらしいですね。で、今さら私が言うことでもないんですが、これは究極の純愛が凝縮された詩集だと思います。芸術を極めるもの同志が出会い、結婚し、慎ましく暮らし、やがて智恵子が狂って死に、作者がひとり残されるという小説よりドラマチックな人生を駆け抜けた想いを、少ない言葉で、それでも強く訴えてくるからすごいです。
これも以前読んだらさっぱりというかむしろ「レモンをがりりと噛んだ」の「がりり」にウケたりしてたんですが、すこし成長してから読むとずいぶん印象の受け方が変わるもんですね。驚いた。詩や短歌は説明が少ないぶん読み手に託されるところが多いから、最初に一度読むよりも、この先取り出して眺めるたびに違う感覚を覚える、というのが楽しみである気がします。



『罪と罰』ドストエフスキー(上下2巻) 評価・10

「十字路へ行って、みんなにお辞儀をして、大地に接吻なさい。だってあなたは大地に対しても罪を犯したんですもの、それから世間の人に向かって大声で、『私は人殺しです!』と言いなさい」

「今のぼくに残されたのはきみひとりだけだ、いっしょに行こう……ぼくらは二人とも呪われた人間だ、いっしょに行こうよ!」

「私はあなたがこういう人間だと思っているのです、信仰か神が見い出されさえすれば、たとえ腸をえぐりとられようと、毅然として立ち、笑って迫害者どもを見ているような人間です。だから、見い出すことです、そして、生きていきなさい。」


すごいすごいすごい。すごすぎる。私にとっては難解な小説の代名詞のような存在だったのですが、高村薫様が「最近の大学生はドストエフスキーも読まない」というので、頑張りました。意外にもすらすら読めました。そして読みごたえたっぷり。 罪を犯して罰を受ける、なんて話じゃないです。 思想小説に始まり推理小説となり恋愛小説で終わる、まさに小説の真髄ここにあり、という感じ。難しくもあるけど、ストーリーも会話もすごくおもしろいのでどんどん読み進められます。
そして主人公は殺したことを反省したりしません。

話によく出てくる、背筋が凍るような孤独や悪夢が圧倒的。ラスコーリニコフがみた痩せ馬の夢、ラスコーリニコフの幻聴、スヴィドリガイロフが見た自殺した少女の亡骸の幻想、息がつまるほどです。
ドラマチックな情景も多々。狭く貧しい部屋で殺人者が聖なる娼婦の足に接吻して「ラザロの復活」を朗読してくれるように頼むシーンがある、と言ったらロマンチストは黙っていられないでしょう。

てか、中学・高校の時にもトライして全然駄目だった理由がわかりました。訳者、説明不足です。ロシア人の愛称の知識がないとドゥーニャとドゥーネチカ・ラスコーリニコワとアヴドーチヤ・ロマーノヴナが同一人物だなんてわかりません。父称とか、名字の変化が複雑なのよ。



『ルドルフとゆくねこくるねこ』斉藤洋  評価・5

珠玉の児童書「ルドルフとイッパイアッテナ」「ルドルフともだちひとりだち」発表から15年を経て何故かいきなり昨年出版された3作目。教養のあるネコを目指す黒猫ルドルフがいろいろな人やネコや犬と別れたり出会ったりする成長物語です。私は前2作がものすごく好きで小さい頃何度も読み返したので続編が出てると知った時にはとても嬉しかったです。しかーし、やはり「一に勝るニは無し」というのか、前2作ほどおもしろくはなかったです。ひさしぶりにルドルフの独特の語り口が読めてそれはすごくよかったけど。前置きが長すぎる気もするし、最後の事件もあっけない気もするし、イッパイアッテナが全然出てきてない気もする。ただブッチーのかっこよさは格別。何か変だと思っても打ち明けられるまで事情を問いただしたりしないクールなシティ・ボーイ・ブッチーです。ネコなのにこんなにかっこよくていいんだろうか?
あと、話を純粋に追うのではなく、血統書の問題を持ち出すことで人種差別反対を示唆したりする、そういう作者の意図が、理解というよりも透けて見えるようになってきてしまったのは、私が大人になってしまったからなんだろうなぁ。



新潮文庫『江戸川乱歩傑作選』江戸川乱歩  評価・6

ミステリー小話がたくさん。明智小五郎ってこんなひとなのね。ポーの影響があるとはいえ大正時代にこんなエンターテイメントなミステリー小説はすごいな。大正の古本屋や質屋の雰囲気との両立も素敵だし。
最後の「芋虫」は戦争で手足を失い耳も口も駄目になった夫を世話する妻という、ミステリーではないものの、かなり壮絶。いちばん怖い。



『いい人になる方法』ニック・ホーンビィ  評価・8

シニカルで調子のいい文章は相変わらず絶好調。爽快な走りっぷり。盲目的な善意を斬りまくります。ただ、おそろしいほどに救いがない。軽快な文章で走り回っているうちに追い詰められて蟻地獄にどんどんはまっていくような。その意味で新境地といった感じもする。最後に主人公がキレて「わたしたちバンザイ!!」と言うところはすごい。また映画化するのかな?これだけ皮肉がキツいと無理か。



『朗読者』ベルンハルト・シュリンク  評価・5

おもしろかったですが、絶賛の前評判からすると、そうでもないような、と思ったり。期待した分、なんだかなあ。すらすら読めていろいろあってそれなりにすごい展開をして秘密が明かされたりもしたけど、「それで?」という感じでしたな・・・・。ラストも感動も雰囲気も、いまいちぬるい。訳者の言葉も力不足。もっとガツンと痺れるような文章で迫って来いよ!村上春樹とかが好きな人は好きかもしれない。



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